長女を妊娠していた頃。
母の認知症は急激に進みました。
被害妄想が強くなり、
私は敵のように扱われました。
夜中に隣の市まで徘徊し、
警察から連絡をいただいたこともあります。
初めての出産。
初めての子育て。
本当なら、
一番頼りたかった母の力を
借りることはできませんでした。
毎日が必死で、
先の見えない日々でした。
正直に言えば、
「どうして母は死ではなく、
生きることを与えられているのだろう。」
そう思ったこともあります。
それほど、当時の私には苦しく、
過酷な現実でした。
あれから年月が流れました。
今の母は、寝たきりです。
言葉を話すことも、
自分で食べることもできません。
さらに乳がんも見つかり、
私は毎月、
治療に付き添っています。
以前の私なら、
今も母が生きている意味を
探し続けていたかもしれません。
でも、今は違います。
母との時間は、
私の心を整えてくれる時間になりました。
会話はありません。
返事もありません。
それでも母のそばにいると、
不思議と心が静かになります。
看護師として、
私はたくさんの命を見送ってきました。
その中で、
確信してきたことがあります。
生には、必ず意味がある。
元気な人にも。
病気と闘う人にも。
言葉を失った人にも。
人生の終わりを迎えようとしている人にも。
それぞれに、
その人にしか果たせない
役割があります。
だからこそ、
あの頃の私は、
母の生きる意味が分かりませんでした。
でも今なら分かります。
母は、
何も話さなくても、
何もできなくても、
私に大切なことを教え続けてくれています。
そして、
その時間の中で、
もう一つ気づいたことがありました。
母は、
地味で堅実で、
とても厳しい人でした。
子どもの頃は、
正直、
怖い存在でした。
だから私はずっと、
「もっと愛されたかった」
と思っていました。
でも今になって思うのです。
私は、
ちゃんと愛されていました。
その愛は、
私が子どもの頃に求めていた形では
なかっただけだったのかもしれません。
認知症が始まっても、まだ元気だった頃。
私がお洒落をすると、
とても喜んでくれました。
留学を決めた時も。
転職を決めた時も。
独立を決めた時も。
母は、本当に嬉しそうでした。
きっと母は、
自分が叶えられなかった夢を、
私に託したかったのでしょう。
だから私は今でも、
心のどこかで、
母が喜ぶ姿を見せたいと思っています。
母には、
それが分かっているのかもしれないし、
もう分かっていないのかもしれません。
それでも私は、
自分らしく生きることを
諦めたくありません。
それが、
母への恩返しになるような
気がするからです。
母と娘。
一見、
仲が良さそうに見えても、
心の奥に誰にも言えない思いを
抱えている人は少なくありません。
「もっと愛されたかった。」
「もっと認めてほしかった。」
「もっと甘えたかった。」
だからこそ、
「インナーチャイルド」という言葉が、
多くの人の心に響くのだと思います。
でも私は、
大切なことは二つあると感じています。
一つは、
「愛されたかった自分」がいたことを
認めてあげること。
あの頃の寂しさや悲しさを、
なかったことにしないことです。
そしてもう一つは、
愛は、
自分が期待した形ではなかっただけで、
違う形で存在していたことに気づくこと。
厳しさの中に。
応援してくれた眼差しの中に。
何気ない一言の中に。
今だから分かる愛もあります。
過去は変えられません。
でも、
過去の意味は
変えていけます。
母は今日も何も語りません。
それでも私は、
母から大切なことを
教わり続けています。
生きることには
意味があること。
愛には、
さまざまな形があること。
そして、
自分の人生を大切に生きることが、
親から受け取った愛を
未来へつないでいくことなのだと。
だから私は、
今日も私の人生を生きます。
それが今、
私にできる
母への一番の恩返しだと
信じています。
お母さん。
生きていてくれて、ありがとう。
Salonゆう
住所:静岡県浜松市浜名区染地台1丁目43−29 レラハウスⅢ
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